#01
宗像和男さん

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宗像
当時、NHKに佐藤英孝っていう変わり者のラジオのディレクターがいて、そいつがNHKFMで「ライブビート」っていう番組をやってて。NHKの501っていうデカいスタジオでバンドを呼んで、お客さんも抽選で入れて、ライブをやるという1時間ぐらいの番組なんだけどね。なかなかいつも変わったブッキングをやるヤツで、おもしろいなぁと思っていて、「なんかおもしろいのあったら教えて」って言ってたの。そしたら電話がかかってきて「今度、クレイジーケンバンドっていうのが出るんですけど、たぶん宗像さん好きだと思うんで観に来ませんか?」と。「どんなバンドなの?」って聞いたら、彼が言うには「究極の箱バンって言うんですかね?」みたいな。「なんでもできるっていうか」って。
なるほど。
宗像
で、気になってスタジオに観に行ったんだよね。始まったらさ、もうおかしくて、気がついたらステージのかぶりつきで観てたんだよ。やっぱり好きな感じなんだよ。全部歌ってる世界がわかる!「ハンサムなプレイボーイ」だとか「あるレーサーの死」とかわけわかんない曲なんだけどさ(笑)。なんだけれども、清志郎のリアルさとは違う面白さがある。でも、観た感じクレイジーケンバンドって色モノっぽいじゃないですか?
はいはい。そうですね。
宗像
ライブがどんなにおもしろくても、CD聴いたら「こんなもんか」っていうケースが多いじゃないですか。気になって、その日のうちにタワーレコードに行って、小西さんのレベールから出てるヤツを買ったんですよ。で、聴いたら翌日からまったく仕事が手に付かなくなって(笑)。
ダハハハハ!またハマりましたね(笑)。
宗像
で、歌詞カードを読んだら、また手に付かなくなってさ。「うわ、凄いなコイツ」みたいな。呼んでくれた佐藤くんにライブやCDがいかに素晴らしかったかの感想を長文のメールで書いて送ったの。そしたら、翌々日ぐらいにマネージャーの萩野くんから「お会いしたいんですけど」って連絡があって。「なんでしょう?」って返事をしたら「いままで一度もメジャーと仕事をしたことがなかったんで、そういう人たちのご意見を聞きたいんで、お伺いしていいですか」ってことで。こちらも「じゃあ、ぜひぜひ」って。それでアポ取って会ったら、萩野さんと横山剣の二人で現れてさ(笑)。
剣さんまで現れましたか(笑)。
宗像
それで話を聞いたら、「これまでマイナーでやってきたけど、自分たちはメジャーの人たちと組みたいのでお手伝いしてくれますか?」と言われて、「もう喜んで!」みたいな話でさ(笑)。
ダハハハハ!
宗像
それ以来の付き合いですよ。それからはライブを全部観る、みたいな感じでさ(笑)。で、この『肉体関係』っていうのは俺が関わって、初めて出した、共同原盤みたいな感じだったんですよ。これはアルバムなんだけど、横山剣いわく「マンモスシングル」なんだよね(笑)。

Disc 07

『肉体関係』
クレイジーケンバンド

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ダハハハハ!
宗像
22曲入りで。で、頭の方に新曲とかもあるんだけど、後半の方は前に出した曲のリミックスとかで。言ってみれば、当時のクレイジーケンバンドのおもしろい曲が山ほど入ってる感じで。入門編としては一番いいんじゃないかな? このへんの「ベレット1600GTヨコスカ仕様」とか「ウォーカーヒルズ・ブーガルー Akasaka Latin Quarter Deluxe」とか「パパ泣かないで」とか、また震えましたね。……震えやすいんだけどね(笑)。
ダハハハハ!
宗像
やっぱり、俺の場合は詩心と歌心なんだろうね。もちろん、メロディも良くないといけないわけだけど。
でも、剣さんはホントに遅咲きですけど、ああいう方がメジャーでやっているということはシーンにとって凄くいいことですよね。
宗像
そうだよね。彼はソングライター、サウンドメーカーとしてもの凄く力があると思うから。これからも楽しみだよね。
僕、自分がプロデューサーやってる関西テレビの音楽番組『ミュージャック』にも出ていただいたことがあるんですよ。
宗像
あ、そうだったんだ。
剣さんは会うと嬉しくなっちゃいますよね(笑)。
宗像
いい感じだよね。
ホンマに剣さんに会うたびに「俺も早く歳取りたいわ」って思いますもんね。
宗像
ワハハハハ。いま50歳ぐらいかな?
それぐらいですね。凄いモテるんちゃいます?スーツ姿もカッコいいですし、胸板も厚いじゃないですか。「剣さん、何かスポーツとかされてるんですか?」とか聞くと「いや、とくに」みたいなことおっしゃるんですよね。
宗像
それでいまでもスリッポンに相変わらず素足とかなんだよね。オシャレだよなぁ。
宗像
で、最後に選んだのがチャボのアルバムね。RCサクセションのリーダーである忌野清志郎が亡くなったというのは、俺にとって凄く大きなことで。
僕にとっても大きかったです。
宗像
そうだよね。そういう中で、清志郎が亡くなったあとのチャボのソロライブとかを観に行った時に、彼の清志郎に対する思いの大きさを思い知ったね。このアルバムはその時のライヴ盤で。

Disc 08

『I STAND ALONE』
仲井戸“CHABO”麗市

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グッときましたよね。
宗像
それとともに、やっぱりチャボのソングライターとしての凄さもわかったね。
味がありますよね。僕もチャボさんのライブは好きですし、CDももちろん聴いてますけど、やっぱり、ある意味コンプレックスもあったと思うんですよ。日本を代表する詩人であり、日本を代表するシンガーの忌野清志郎の隣でギターを弾いてた人が、いざ自分がボーカルとしてステージに上がるっていうのは相当覚悟がいると思うんですよね。
宗像
そうだろうね。清志郎の歌がいかに凄いかってことを間近で観て知ってるわけだからね。
清志郎はそんじょそこらのボーカリストとは違うわけですからね。
宗像
ホントそうだよね。まあでも、清志郎が亡くなったっていうのもあるんだけど、チャボにはその後のライブで何回も泣かされたよ。
それは凄くわかります。
宗像
もちろん清志郎の歌を唄ったときもそうなんだけど、あとはチャボ自身の歌を唄った時に、その深さとか、ホントにとんでもないヤツだなって。もっともっと評価されていいなって。このアルバムの中にも清志郎に対する詩の朗読みたいなのがあるじゃないですか?
ありますねぇ。
宗像
この前も聴き直したんだけど、涙が出ましたもんねぇ……(しみじみと)。
わかります。僕もこのアルバムは号泣しましたねぇ。
宗像
凄いよねぇ。彼の不在をなんとか受け入れようとしてるんだよね。いま、歌詞が入ってこないシンガーとかバンドとかいっぱいいるじゃないですか?
そうですね。
宗像
そいつらと、チャボだとか清志郎だとか、横山剣とか、あがた森魚とかの違いってなんだろうって考えた時に、これは合ってるかわからないけど、やっぱ、人にモノを伝えたいって思う熱量が他の人たちと全然違うのかなって思うような気がしたんだよね。
あ~~、それはあるのかもしれませんね。いま名前を挙げた人たちの熱量っていうのは尋常じゃないでしょうね。
宗像
そういうのってあるよね……。イイ女を口説く時の本気さみたいな。
それに、その人たちっていうのは伝えずにいられないっていう業みたいなのを背負ってますよね。
宗像
そうなんだろうねぇ。中世の吟遊詩人なんかは、歌ってることが聴いてる人に伝わらなければ、お金がもらえないわけだからさ。そういう伝えられる人だけが残っていくんだよね。
なるほどねぇ。
宗像
やっぱり、詩を使って世の中の物事を切り取る才能が図抜けた人たちなんだよね、俺が挙げた人たちっていうのは。
そうでしょうね。
宗像
いや、でもそれはよくわからんな。……っていうのは、それほどたくさん聴いてないから(笑)。
ダハハハハハハハ!
宗像
比較のしようがない(笑)。
そういう宗像さんが僕は大好きですよ(笑)。今日はどうもありがとうございました!

(聞き手・メディアプルポ音楽出版部プロデューサー 原一博)

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