#03
角田光代さん

2/4

角田
たぶん感覚なんだと思いますけど。
そのライブに行ってなかったら、その後の角田さんの人生も……。
角田
(さえぎって)もう全然違ってます!
ですよね(笑)。
角田
同じ歳のときにディヴァイン主演の『ピンク・フラミンゴ』って映画を観てるんですけど、それが初めて一人で観に行った映画なんですね。
そうなんですか。
角田
どうしても観たくて観たくて。それで観に行ったら、あんな下品な映画を大好きな自分に気づいて、もの凄くビックリしたんですよ。
自分に驚いたと(笑)。
角田
自分はもっと綺麗なモノが好きだと思ってたんで。
そんなはずじゃなかったと?(笑)。
角田
はい。そういう中で全部の扉が開いた頃だったんですね。18~19っていうのは。
はぁ~、なるほど。なんかわかりますねぇ。宗像さんもおっしゃってましたけど、宗像さんはインドに滞在していた時、まるでチャクラが開いたような感覚に陥って、見るモノ聴くモノすべて刺激的になっちゃったんですって。
角田
あ~、それはわかりますねぇ。
でも人生でそういうことって滅多にないですよね?
角田
うん、うん、うん。
一番多感な時期に、一番えらいモノ観てしまったってことですよねぇ(笑)。
角田
でも、遅いですよね、やっぱり。普通は高校生ぐらいなんじゃないかと思いますね。
そうかもしれませんね。でも、そこからはのめり込んで?
角田
のめり込みましたねぇ、見事に(笑)。
角田さんは、のちに小説家になられるわけですけど、その当時から言葉重視というか、詩に対して敏感だなという自覚はありましたか?
角田
はい、それは。
人を感動させるのに、そんなに難しい言葉を使う必要ってないんやなっていうのを感じますよね。凄くシンプルでありふれた言葉でも、歌の中でのフレーズの置き方ひとつで響き方が全然違うんですよね。
角田
うん、そうですね。
太田さんのインタビューの時にも出たんですけど、「スローバラード」の中で出てくる「市営グラウンドの駐車場」なんて、誰しもが知ってて、でもラブソングには似つかわしくない言葉じゃないですか。でも、あのワンフレーズだけで、もう清志郎しかありえない世界を作り上げてるんですよね。
角田
そうですよねぇ。「コール天のズボン」とかもそうですよね。
まさに!それ、宗像さんとも盛り上がりました。
角田
他の人が言ってたら、どれだけダサいか(笑)。
コール天のズボンって歌詞が入ってる「ダーリンミシン」には他にも「お正月」とか出て来るんですけど、そんなのロックナンバーに使われるフレーズじゃないですよね?でもロックなんですよね、あれ(笑)。ロックらしくないっていうだけで歌詞に使われにくい言葉でも、清志郎は躊躇なく使いますよね。
角田
ですよね。その言葉が立ち上げる世界は誰もが共有可能っていうか、自分の世界として、「コール天のズボン」とか「ガードレール」とかを自分の体験として持てるようなところがありますよね。

「歩道橋」であったりとかね(笑)。そういう小学生でも知ってるような言葉で、あれだけ深い表現をできるんですもんね。美辞麗句を並べなくても人って感動させることができるんやなぁって凄く思いますもんね。
角田
ええ、ええ。
徹底的に簡単な言葉しか使ってないですからね、清志郎は。それはデビューの時からも一貫していて。ちなみに前回出ていただいた太田さんって、RCのフォーク時代とか渋谷ジァンジァンのステージを生で観られていて……。
角田
(さえぎって)ビックリしましたよ!
凄いですよね(笑)。
角田
“キザクラの青年”ですからね。
さっすが角田さん!よくご存知で(笑)。そうなんですよね。RCのファンからすると「この人がキザクラの青年なんや!」って感動しますよね。だから、ボクもこのあいだ初めてお会いした時に握手させてもらいましたもん(笑)。「本で読んでたのがこの人なんや!」って。
角田
そうそうそう。私もお会いした時にそう思いました。で、“キザクラの青年”ってフレーズ、ファンなら覚えているじゃないですか?
もちろん!まさか、そういう方とのちにお会いするなんて思わなかったですし。
角田
ね~~。
感激しましたけど。そういえば、角田さんは清志郎本人と会ってますよね?
角田
はい、会わせてもらってます。すご~くあとですけど。
何がきっかけだったんですか?
角田
あの時は会うつもりもなかったんですけど、宗像さんによって、あれよあれよという間に会っちゃったんですけど(笑)。
あ、そうなんですか(笑)。
角田
そんな感じでしたね。私は全然会いたくなかったんで。
そういうもんなんですか?
角田
はい、はい。
それはまた、なんでですか?
角田
もう好きすぎて、会う意味もない(キッパリ)。
ダハハハハハハ!
角田
だって会う意味ないですよね? 会っても話すことがないし。
でも会ったら会ったで感激しますよね?
角田
感激するっていうか、「会えてよかったな」と今は思いますが、あのときは……。
なるほど。
角田
それまでも、仕事で会わせてあげるというような話もいくつか頂いたんですが、全部断ってきたんですよ。
あ~、そうなんですか。
角田
「会う意味がないですから」って言って(笑)。
まぁCD聴いていれば十分ってところですか?
角田
本気のファンなんです。
会ってイメージと違ったら嫌だとか、そういうんではないですよね。
角田
いや、全然違います!会わなくても……大丈夫っていうか(笑)。
むしろそれだけ忌野清志郎という人への思い入れの強さを感じちゃいますね。僕、思ったんですが、他に挙げていただいた7枚も、ほとんどがRCのフォロワーというか、少なからず影響を受けた人たちですよね。
角田
そうなるのかな?自分ではよくわからないですけど。
たとえば、ストリート・スライダーズなんて、蘭丸さんなんかは、のちにチャボさんと麗蘭組んでるくらいですし、ボ・ガンボスやブルーハーツ、ピーズ、エレファントカシマシ、サンボマスターなんかは、多かれ少なかれRCファンだと思いますよ。
角田
そうか。でも、それを言ったらみんなRCファンじゃないですか?
確かに行き着くところはそうですよね(笑)。
角田
ですよね。
でも、僕なんかは、清志郎ファンのアーティストだからCDを買ったんじゃなくて、好きになって聴いていたら、あとでその人も清志郎ファンだと知るって感じでしたね。
角田
うん、うん。私もそんな感じでしたね。
順番で言うと、RCのあとはスライダーズになるんですか?
角田
そうですね。スライダーズかブルーハーツのどっちか。スライダースの方が前かな?
じゃあスライダーズの『THE LIVE! 天国と地獄』で。スライダーズは何きっかけだったんですか?

Disc 02

『THE LIVE! 天国と地獄』
THE STREET SLIDERS

Amazon
角田
なんだろ?たぶん、RCを聴き始めて、音楽にいままでとは違う興味が湧いてきていて、違うモノもいろいろ聴くようになって。で、その時に付き合っていた人がRCの大ファンだったので、よく一緒にライブに行ったりしてたんですけど、その人から色々借りたりするなかで、スライダーズがカッコいいと思うようになってましたね。
へぇ~。スライダーズはRCの詩の世界とは違いますけども。
角田
違いますねぇ。
でも、スライダーズもいま聴いてもめっちゃカッコいいですよね?
角田
ですね。
個人的にはバンドのグルーヴはRCよりもあったと思います。
角田
そうかもしれませんね。
無愛想ではありましたけど(笑)。
角田
ね~?怖かったですよね(笑)。
HARRYさんってソロで活動されてるんですよ。
角田
やってるんですか?
はい。僕は行けなかったんですけど、何年か前、タワレコでCD買ったら握手してくれるっていうイベントがあったんですよ。
角田
え~~!?
あの寡黙で無愛想なHARRYがですよ(笑)。
角田
ええ。
スケジュールが合わなくて行けなかったんですけど、ファンと握手するHARRYは見てみたかったですね(笑)。
角田
え~、それは見たかったですね。なんていう名前でやってるんですか?
HARRYだったと思います。で、スライダーズ時代の名曲をアコギで弾き語るという。
角田
へぇ~。
ちょっと凄くないですか?ファンと握手するHARRYって(笑)。
角田
凄いですよね(笑)。
かたや蘭丸さんはテレビにずっと出てらっしゃいますからね。
角田
あ、そうなんですか?
日曜日の夜にやってるKINKI KIDSの『新堂本兄弟』って番組でずっとギターを弾いてます。
角田
へぇ~。
いろんな芸能人に交じって演奏してるんですよ。
角田
知らなかった。
スライダーズで特にこの曲が好きってのはありますか?
角田
やっぱり「のら犬にさえなれない」ですかね。
「のら犬」はいい曲ですよね。あれはHARRYが初めて作った曲らしいですよ。
角田
あ、そうなんですか?
天才ですよね?
角田
うん、うん。へぇ~~。
で、続いてはザ・ブルーハーツのファーストアルバム『THE BLUE HEARTS』

Disc 03

『THE BLUE HEARTS』
THE BLUE HEARTS

Amazon
角田
はい。
ブルーハーツはどういうきっかけで知ったんですか?
角田
たまたまラジオで流れているのを聴いたんですよ。「リンダリンダ」を。そしたら、すっっっっっごいビックリして。
ダハハハハハ!
角田
たった一回聴いただけなのに「この人たちのライブに行かなきゃ」って思ったんですよね。私は横浜に住んでたんですけど、調べてみると西横浜でライブがあって。で、「これに行かねば」と思ったんですけど、もうチケットがない状態だったんです。
はい。
角田
それまでは、誰かに教えてもらうとか、誰かが「カッコいい」って言ってたから聴くようになったりしてたんですけど、ブルーハーツはRCの時と非常によく似てて、「これはちゃんと自分一人でも観に行かないとダメだ」っていう気持ちになったんです。
へぇ~~。そのライブは行けたんですか?
角田
そのすぐあとのライブには行けました。でね、その時に付き合ってた人は一緒に行くのを嫌がったんですよ。
なんでなんですか?
角田
自分がいつも「これがカッコいいから聴いてみたら?」と教える立場だったのに、ブルーハーツは私の方から「これに行こう」って言ったんですよ。それがしゃくに障ったんじゃないかと勝手に思ってます。
微妙な男心ですねぇ(笑)。実際にライヴを観てみてどうだったんですか?
角田
ものすっっっごくよくて、それからしょっちゅうライブを観るようになりました。
僕もブルーハーツはビートたけしさんの『オールナイトニッポン』を聴いてる時に偶然流れてきた「リンダリンダ」に衝撃を受けた覚えがあります。
角田
衝撃ですよね!あれはいったいなんなんだろう?
なんなんですかね。「リンダリンダ」って歌詞だけ読むと意味がわかんないですけどね。特にサビ。甲本ヒロト自身も「なんでリンダリンダって歌ったか、自分でもわからない」ってインタビューで言ってましたけど。
角田
ブルーハーツは社会現象でしたよね?
確かに社会現象でしたよね。
角田
大人がみんな狂わされたみたいな。
でも甲本ヒロトさんも、ブルーハーツに疲れていく部分はきっとあったでしょうね。あれだけの騒ぎだったら。
角田
ですよね。うん、あれは世間が変だった。
まあやっぱり、ブルーハーツに対して大人がすり寄るところもありましたしね。パッと見はニコニコしてる気のいいあんちゃんというパブリックイメージだったじゃないですか、甲本ヒロトって。
角田
そうですよね。
テレビにも出てたし。スターリンならともかく、ブルーハーツは常に世間に向き合わざるをえないほど大きくなっちゃいましたもんね。その後、ブルーハーツは聴いておられたんですか?
角田
ブルーハーツは聴いてましたけど、ハイロウズになってからはちょっとづつしか聴かなくなりましたね。ハイロウズになってからはあんまり意味ない歌詞も多くなりましたよね?

目利きやTOP