#03
角田光代さん

4/4

でも、いまもライヴでよく昔の歌も歌ってるんですよ。「珍奇男」とか「ファイティングマン」とか。
角田
あ、そうなんですか。
はい。でもなんか、昔の曲で喜ぶような癖の悪い自分もいますけどね(笑)。そこはしょうがないことなのかもしれないですけど。
角田
そうですよねぇ。
まあでも、宮本さんは見た目も全然変わってないのが凄いですけどね。
角田
あ~、そうですよね。
今回のラインナップで、わりと新しめなのがサンボマスターですね。『新しき日本語ロックの道と光』

Disc 08

『新しき日本語ロックの道と光』
サンボマスター

Amazon
角田
一時期、聴きたい曲がなくて、何を聴いたらいいのかもわからなくなって。エレカシとか観てた時期って凄い楽しかったじゃないですか?
ええ。もうメッチャ楽しかったですよ!
角田
でもその後、何を聴いたらいいのかわからないって時期が10年ぐらいあって。
それは僕もありましたよ。清志郎の話に戻っちゃいますけど、ラフィータフィーの頃とか、正直ピンと来なくて。セールスも動員もどんどん落ちて行って。だから、清志郎がガンから復活を果たし、武道館という華々しいステージに立てたということは本当に良かったなぁと思って。ホンマ、一時期、思春期の貯金で聴いてるようなところもあったんで。
角田
ありましたね。あんまりワクワクしなくなってるというか。
そういう時期にサンボマスターに出会ったわけですか?
角田
そうですね。友だちがCDを貸してくれて聴いた時に「助かった!まだ聴くものがあった~!」って思って(笑)。
友だち、ナイス!
角田
凄い嬉しかったですね。
そのお友だちもちゃんとツボをついてきますね。
角田
あんまり知らない人だったんですけどね。
これ、タイトルも凄いですね。『新しき日本語ロックの道と光』って。
角田
ですよね。サンボマスターもドラマの主題歌になったんでしたっけ?
『電車男』ですね。そこからブレイクしましたね。どういうところがサンボマスターはよかったんですか?
角田
歌詞が素晴らしかったのと、音楽も凄く本当に気持ちよかったですね。
サンボマスターは角田さんだけじゃなく、水道橋博士をはじめとしたサブカルチャーの人たちのアンテナにもピピッと来てましたからね。
角田
へぇ~。
山口君は凄い詩人ですもんね。
角田
ねぇ。
で、MCも上手いんですよね。
角田
ねっ。凄い上手ですよね。
なんか落語が大好きっていうのもよくわかりますよね。MCの上手さはロックバンドのそれじゃないですもんね。
角田
ですよね。
で、この中で一番新しいのがandymoriの『ファンファーレと熱狂』

Disc 09

『ファンファーレと熱狂』
andymori

Amazon
角田
そうですね。
わりとこの流れの中ではandymoriは違う感じですけど。
角田
違いますね。
andymoriはなんで好きになったんですか?
角田
これはGOING UNDER GROUNDが仲良くて。
旦那さんがやられてるバンドですね。
角田
はい。それでCDを借りて聴いたら凄い変わってるなぁと思ったんです。
角田さんのツイッターを拝見していても、andymoriのライヴに行かれているのがわかります。この『ファンファーレと熱狂』はいいアルバムですよね!
角田
いいアルバムでしたねぇ。
andymoriの世界観とか歌声はとても繊細な感じがしますね。
角田
そうですね。ちょっと違いますね。これまでに私が挙げたCDのは泥臭い感じが多いので(笑)。
確かに(笑)。でも、一貫性は感じます。
角田
そうですね。私はマジメなことが好きなんですよ。
なんですか、マジメなことって?(笑)。
角田
マジメというか、真剣なというか、本気な感じというか。本気のベクトルが各バンド、同じ方向を向いてるのかなって。
あ~、そうかもしれませんね。今日挙げていただいたバンドの本気は、照れたり隠したりできないレベルですね。メッチャ本気でしょ、この人たちは(笑)。
角田
ですよね(笑)。
こうやってみんなが本気で向かってるベクトルは作家として角田さんも共感したりしますか? 「自分も頑張らなきゃ」みたい。
角田
たぶん、おんなじベクトルだとは思いますね。「売れたい」とか「有名になりたい」とかとは違うところで歯を食いしばってる感じとか。
ああ、そんな感じはしますねぇ。ただ、売れるということも無視できないというか、当然大事なことですよね。
角田
そうですね。
音楽ビジネスってある種わかりやすいところがあって、シングル曲がヒットしたら、周りも「それと同じようなモノ、また作ってくれ」みたいなところがあるじゃないですか?
角田
はい、はい。
でもアーティストとしてはそれは簡単にはしたくないだろうし。そのせめぎあいで疲弊する部分もありますよね、きっと。
角田
だと思います。でも、そう思うと、最後まで「雨あがりの夜空に」をライヴで歌った清志郎も偉いなぁと思いますよね。
メッチャクチャ偉いと思います!
角田
やっぱ、本気度はそこなんだなって思うんですよね。
だって、あんなの何十年歌ったんだって話じゃないですか(笑)。
角田
ねぇ(笑)。
のちの清志郎のインタビューとかを読んだら、やっぱり「雨あがり」を期待されるのが嫌な時期もあったんですって。で、「俺はカラオケマシンじゃねえんだ」とか言って抵抗していたんですけど、結局本人は「諦めた」って(笑)。どっかしら腹を括ったってことなんでしょうね。
角田
もう覚悟ですよね。
でしょうね。
角田
受け入れるというのは凄いことだと思います。
もう後半なんて、「雨あがり」を最後に歌わないと収まらないって感じでしたもんね(笑)。でも、続けることの凄味を感じますね。
角田
そうですよね。
一方、甲本ヒロトや真島昌利みたいに、ブルーハーツをやり続けることの安定を一切捨て去って、新しい刺激的なバンドを作るってのも、これまた凄いと思いますね。
角田
うん、うん!
ただやっぱり、清志郎は凄い(笑)。
角田
どちらも潔いですよね。
さっきの売れるって話ですけど、角田さんで言うと、やっぱり、節目節目で凄く売れたり、ドラマ化されたりする作品があるじゃないですか。たとえば『八日目の蝉』しかり。それを周りから「あんなのをもう一回書いてくれ」みたいなプレッシャーはないんですか?
角田
ないです、ないです。小説というジャンルは売れる方がおかしいってことろがありますからね。
へー、そういうもんなんですか(笑)。
角田
はい。で、売れるにはさっきのドラマの主題歌じゃないですけど、映画になるとか特殊なことがない限り、そんなに小説って売れないですからね。まあ、例外もありますけど。だから、周りも自分も「何々が売れたから」とか「あれを超えなきゃ」とか、そういうのはあまり考えないですね。
へぇ~。
角田
あわよくば「また誰かが映画化してくれないかな」みたいな(笑)。
映画化したらラッキーみたいな(笑)。でも、角田光代さんは売れっ子作家さんなわけで、それまでの成功体験に縛られるってことはないんですか?
角田
ないですねぇ。
逆にそこで意地になって「違うものを書いてやる」みたいな力みもないんですか?
角田
ないです。
「次はSFを書いてやろう」みたいなのはないと?(笑)。
角田
ないですねぇ(笑)。
へぇ~~。音楽の方が良くも悪くもモンキービジネスなのかもしれませんね。
角田
うん、うん。
そう考えたら、小説家ってお仕事はもちろん大変だと思いますけど、角田さんは自分が追及したいテーマを書けているんですね。
角田
はい、はい。
最後にお聞きしたいんですけど、清志郎さんが亡くなる前にNHKの番組に出たんですよ。若者たちを相手にして。で、「清志郎さん、最後にメッセージを」って言われた時に、「大人になるってことは、みんなしょぼいことだとか、やなことだとおもってるでしょ。それは全然違います。大人になったら楽しいことがもっと多くなります。大人になることは凄く素晴らしいことなんです」っていうようなことをハッキリ言ってたんです。それを聞いてボクはメチャメチャ救われた気がして。角田さんは大人になるってことは、どういうふうに思ってますか?
やっぱり、いいと思いますよ。大人になったら選べることが格段に多くなるじゃないですか?
角田
自分の意思でなんでもできますもんね。
そうですね。
角田
しかし、清志郎をはじめ、僕らはこういった音楽を聴いて育ったんですけど、若い人たちの音楽であっても、いま大人になっても全然聴けるというか納得できることが不思議ですよね。
そうですよね。
角田
ハタチそこそこの甲本青年が歌った曲で、40過ぎたいまも聴いて泣いちゃうってのはどういうことだろうと思いますよね(笑)。
ホントそうですよね~。20代のころに聴いてた音楽はもう聴けなくなるんだろうなぁとか思ってましたからね。
「こんなん聴いて感動するのはいまだけなんかなぁ」と思ってましたけど、全然そんなことはないですからね。
角田
まだ全然大丈夫なんだってわかった時は嬉しいですよね。
嬉しいです!一方で、自分があまりにも変わってなさ過ぎて心配になる時もあるんですけどね(笑)。
角田
それもあるかもしれない(笑)。
今日はお忙しいところ、どうもありがとうございました!
角田
ありがとうございました。

(聞き手・メディアプルポ音楽出版部プロデューサー 原一博 構成/阿修羅チョロ )

目利きやTOP